“個性的”という言葉では表しきれないほど、インパクトの強いキャラクターが描かれる『チェンソーマン』。今回は藤本先生の出世作『ファイアパンチ』をアシスタントとしてサポートした経験を持つ賀来ゆうじ先生に、藤本先生がどのようにしてキャラクターを生み出したのか、その秘密を直撃した。
欲望まみれの悪魔が主人公!! 新時代ダークヒーローアクション
『チェンソーマン』
藤本タツキ
ド底辺な生活を送っていた主人公・デンジがその身に悪魔のポチタを宿し、欲望を原動力に悪魔たちとの血みどろバトルを演じる。「週刊少年ジャンプ」で連載を開始するや、独特のセリフ回しと世界観で読者の心をつかんだ話題作だ。
「ジャンプ+」の人気作!! 生死を悟る忍法浪漫活劇
『地獄楽』
賀来ゆうじ
江戸時代末期を舞台に忍者、剣豪、そして奇想天外な怪物が対峙する和風ファンタジーで、その予想がつかない展開も相まって「ジャンプ+」の人気作となる。また、作者の賀来先生は藤本先生の連載デビュー作『ファイアパンチ』をアシスタントとして支えた経験を持つ。
――藤本先生が描くキャラクターについて、どう思いますか?
賀来:藤本先生とは『ファイアパンチ』のアシスタント時代からの付き合いですが、僕と先生は映画のタイプとか好きなものが近くて、デザインについても同じなんです。だからお互いに同じ映画を見て、「あれかっこいいよね」って話していたものから引き出されるデザインが多い印象です。あと、僕も藤本先生も、デザインに関してはディテールよりも、本質がしっかりしているデザインがかっこいいって思うタイプなんです。どんな奇抜なデザインをしていても、その本質に目新しさがないと意味ないんですよね。根本が考えられているデザインに惹かれるんだと思います。僕の言葉で言うと、そういうデザインは「強度が高い」んです。具体的には、チェンソーマンは狂暴でイっちゃってるっていうキャラの本質が、デザインからすぐに伝わるのがすごいなって思います。そういうところは僕がやりたいところでもあるので、藤本先生の作品を見てるとすごく刺激を受けます。
キャラクターの性格で言うと、『ファイアパンチ』のトガタとか、藤本先生の描くキャラクターにはその人間性の中心にギャグがすでに含まれているんです。だから、はたから見るとギャグにしか思えない行動も、そのキャラクター的には大真面目にやっているという構図ができる。またそのキャラクターのギャグ要素がストーリーを動かしていくっていう作り方が、藤本先生の作品の根幹にあるような気がします。
そういえば主人公のデンジは藤本先生に似ています。彼の語尾は完全に藤本先生のそれですもんね。ご本人も「俺はよぉ、そのためだったらよぉ」とか、そういう口調でしゃべる時があるから(笑)。
――お二人は好きなものが似ているとのことですが、どのような作品がお好きなんですか?
賀来:2人とも、見たことのない場所に連れていってくれるような、作品のジャンルすらも途中で変化していくような作品が好きなんですよね。『ファイアパンチ』もそういう作品だと思います。僕たちは作品を評価する時の基準のかなり大きい部分が、「他の作品と違う感覚」とか「新しい見せ方」っていうところに占められています。「こんなの見たことない!」っていうものを見た時の喜びが大きいんです。ただし、単に変わっているだけではダメで、本当にその世界が存在すると思わせてくれる「マジ感」っていうのが必要なんです。藤本先生の作品も、物語全体のスケールは壮大で次から次に展開が変化するんですけど、最終的には具体的な、手の届く感情に帰結させていこうとするんです。そこに「マジ感」を感じられるというか。そのあたりは『寄生獣』とか『シグルイ』などの名作に通ずるところがありますね。
――『チェンソーマン』の悪魔たちのデザインはどう映りますか?
賀来:例えば僕と藤本先生が同じ題材の物を描く時、僕の場合は好きなものの魅力を、どうやったら読者に分かりやすく伝えられるのか、ということを考えて、デザインにあれこれ足しちゃったりするんです。でも、藤本先生はその好きなものをそのままの形でボーンって出しちゃう。それを見ると「これ大丈夫か!?」って思う時もあるんですが、読者にはそのまま受け入れられている。だから『チェンソーマン』の悪魔も、デザイン的にはそれほど意外性はないですよ。「あ~思っていた形が出てきた!待ってました!」っていう感覚で、デザインそのものには驚きはあまりありません。ただ、それをそのままやるんだっていうところに「え~!?」って思うことがあります。
具体的に言うと、デンジが変身するチェンソーマンのデザインについても、「とってつけた感じ」をあえて出していると感じました。チェンソーの部分を自然に馴染ませるデザインは、藤本先生はやりたくないんだろうな、と思います。
あと、少し話はそれますが、第3話で藤本タツキという名前がビルの看板として出てくるのですが、「あえてやるチープさ」というか、そういう部分がすごく良いなと思いました。あとでご本人に聞いてみたらアシスタントさんが勝手にやったと言っていましたが(笑)。でもそれをOKにするのがすごく良いですよね。そういう粗削りな部分というか、そのままドンって置いてある感じっていうのは、藤本先生が意識的にやっている部分だと思います。
担当:そういうことをやれる勇気がありますよね。普通は不安になるようなことも「行っちゃえ!」とアクセルを踏む勢いがある。
賀来:そうですよね。素材がそのままの形で出てくるような料理でも、お皿ぐらいは整えようかなって思うし、そのまま出すにしても「あえてそのまま出したんですよ」って説明したくなるんですけど、藤本先生にはそういうところがない。そこはすごいなぁと思います。変身後のデンジのデザインも、普通だったら「もう少しなんか足しちゃいたいな」って思うんですけど。頭に取っ手が付いている感じも藤本先生らしいんですよね。普通はチェンソーの化物をデザインしようとすると、刃の部分だけをメインにすると思うんですけど、藤本先生の場合は道具そのものが頭に乗っている感じになるんです。あと、藤本先生と僕のデザインの仕方で違う点を挙げるとすれば、藤本先生は笑いの要素を取り入れているところですね。僕はデザインする時、どうしても「かっこいい」ってことばかりにこだわってしまって、それは自分の欠点だと思っているんですけど、藤本先生は僕の好きなデザインの感性に加えて、結構大きな分量で笑いが入っている。それはストーリー的にもそうです。そこは憧れるところですよね。
――今回賀来先生に描いていただくのは『チェンソーマン』のどのキャラクターでしょうか?
賀来:『チェンソーマン』のキャラはTwitterでもいろいろ描いてはいるんですけど、好きなのも描きたいのもやっぱりデンジですね。