腐導のラグランです
秘書のアシナです
さて。ボクたち魔族の本営たる魔王城は、労働条件がすこぶる極悪——巷で言うところの〝ブラック〟で有名でして
……唐突にブッコんできましたね
過労死した魔族を蘇生させ、再び過労死するまで働かせるような職場ですからね
ボクとしてもまっこと不本意なのですが、ドぎつい職場はドぎつく紹介せざるを得ません。魔王城のドぎつさたるや、アシナさんにも心当たりがあるのでは?
うっ……そりゃまあ、いくつかは……
そうですか。では、一例お願いします
い、一例? 挙げるんですかっ!?
はい。なるたけエグいのを。ご心配なさらずとも、魔王ジャルド様には内緒にしておきますから
うわあ、信用できな——じゃなくって……魔王城に悪いところなんて……
そ、そう! 魔王城に悪いところなんてありません! 魔王ジャルド様の導きに従えば、なんの心配もないんですから!
んふふ。アシナさんにもブラックな体質が染み入っているようで。見事な模範解答です。就業研修でそう答えるようシゴかれましたか?
とまれ、そういった思想をお持ちなのでしたら無理強いはしません。代わりに、魔王城の良いところを紹介してもらえますか
良いところ、ですか
はい。なるたけエグいのを
エグ味をちらつかせる意味がちょっとわかんないんですけど……でも、良いところならいくらでも
例えば……実家のような安心感って評判じゃないですか!
たしかに、魔王城は実家以上に実家です。帰ることができず、実家よりも長くいることになりますから
門衛の[動ける石像]さんも数年間立ちっぱなしなせいで、動き方を忘れたらしいですよ。調度品として余生を送る覚悟を決めたそうですが
だったら……やりがいのある成果&実力主義!
ノルマを達成できなければクビが飛びます……ああ、なんらかの比喩ではなく、解剖学的に
若手が活躍できる環境!
活躍といっても前線のダンジョンに配属されるだけですし。相対する勇者たちのレベル如何によっては、悲惨な結末になるでしょうね
即戦力による少数精鋭!
勇者たちも四人一組のパーティーで行動していますから
圧倒的成長!
そんな聞こえが良いだけの言葉に酔っているようでは……とてもとても
ふぅぇぁぁぁあああ————ッ!
おや、どうしましたか。叫びながらくずおれるとは。アシナさんらしくもない
なんなんですか!? ラグランさん、魔王城に不満でもあるんですかっ!?
ありませんとも。誰が呼んだか忍耐のラグラン、並大抵のことでは不満など抱きませんし、抱いたところで我慢します。忍耐のラグランですから。それに——
ここは大陸の最西端——いわゆる辺境、ロドノーク湿原。中央の魔王城に媚びへつらったところで詮なきこと。左遷された者同士、のんびりやりましょう
いや、私は別に左遷されたわけじゃ……ラグランさん。どうして鍬を担いでるんですか?
いえね、大地がボクにもっとたがやせと囁いてくるんです。アシナさんには土壌の声が聞こえませんか?
うわ、またキッツいこと言いだした……駄目ですよ! 今日こそダンジョン建造の企画書を作ってもら——あれ? ラグランさん?
〜♪
ラ、ラグランさん? どこに……ちょっと!! ラグランさぁ————んッ!?