ラグラン

おや。アシナさんが手にしているそれは……業務日誌?

アシナ

そーですよ? 魔王城に提出する報告書も兼ねて、毎日書いてるんですから

アシナ

たとえばほら、ラグランさんが赴任してからの業務内容もしっかり——

アシナ

…………

ラグラン

真っ白ですね

アシナ

ラグランさん、一日も働いてないじゃないですかァ————ッ!!

アシナ

なんなんですか!? ロドノーク湿原に来てからびた一日働いてないって!!

ラグラン

はて、びた一日……そんなことはないと思うのですが

アシナ

そうは言っても、現に……

ラグラン

たとえば、ボクがロドノーク湿原にやってきた日。出向は魔王城の命令だったわけですから、道中の移動そのものが勤務といえます

アシナ

……へっ……

アシナ

屁理屈だァ————!!

ラグラン

他にも面接や食料の確保など、なんやかんややっているはずですが

アシナ

うっ。そりゃまあ……そうですけど

ラグラン

とまれ、それはそれということで。誇りなき功績を誇ったところで誇れるものでもなし、ひとまず置いておくとして

ラグラン

置いた代わりに……これを担ぐとしましょう

アシナ

……ラグランさん? どうして鍬を?

ラグラン

いえね、お話も一段落したようですから、今日もたがやしに行こうかと

アシナ

畑作りには熱心なんですね!?

ラグラン

土いじりは心が安らぎますからね

ラグラン

誰が最初に言い出したんだったか……ボクはエンドレス過労師と呼ばれ、忌み嫌われてきました

ラグラン

一二〇〇年間しゃにむに働いていた分、今は静かにのんびりと暮らしたいのです

アシナ

…………

アシナ

……はあ……

アシナ

これじゃ腐導のラグランじゃなくって、不労のラグランじゃないですか

ラグラン

これはなんとも手厳しい

ラグラン

……おや?

ラグラン

珍しいですね。アシナさんがスコップを手にするとは。もしやおひとりでダンジョン建造を?

アシナ

違いますよ。私にも土壌の囁きが聞こえたんです。もっとたがやせ、って声が

アシナ

だから……今日は私も土をいじることに決めました

ラグラン

よろしいので? 業務日誌の輝きがまた一ページ増してしまいますが

アシナ

それはそれ、ってことで

ラグラン

…………

ラグラン

んふふ

ラグラン

そうと決まればさっそく参りましょうか。実は新しい添え木を立てるのに、どなたかの手を借りたかったところでして——