石 ボツにしたネームでは、ヒソカが裕福な家庭の子供だったりとか、逆に貧しかったとか、育った環境に踏み込んで描いたものもあったんですけど、それがすごく違和感があって。ヒソカは過去を語らないキャラクターなんで、そういうのが匂ってしまうと、途端にヒソカじゃなくなる感じがしました。
冨 そうなんですよね。過去を掘り下げるのって難しいんです。どんな物語を用意しても、読者の想像を越えるものにならないっていうか。むしろはっきりするよりも、分からない部分がある方が魅力になると思うんですよ。今回の石田さんの漫画の冒頭も、「なんでヒソカが倒れているんだろう」って考えるのが楽しいんですよね。こんな風にヒソカを描いてくれて、本当に嬉しいです。
石 冨樫先生の中では、ヒソカの過去のイメージはあるのでしょうか?
冨 ないんですよ。だから、なるべく考えないようにしてたんです。でも、今回の石田さんの漫画よりももう少し前のヒソカについては、いつかは語ってもいいのかなって思います。ただ、どこまで遡れるのかは難しいところです。
石 それはすごく興味があります。
冨 僕自身の精神年齢が、多分中二~高二くらいで止まっているんで(笑)。ヒソカについてもそのくらいの年齢の物語は描きたいですね。それ以上過去の話になると、家庭環境とか、どんな親だったのか、っていう話になってしまうので、ちょっと説明しすぎるなって気がします。
石 自分の勝手なイメージですけど……なんとなく、ヒソカには父親がいるイメージがないなって思っています。父親からの影響がなさそうというか。
冨 僕が今まで描いてきた漫画は、主人公も含めてみんな片親だったり、色んな家庭環境のキャラクターが多いんですよね。僕自身はいまだに両親も健在だし、よくある家庭環境でしたけど(笑)。でも、漫画を描いてみたらそういう家庭環境になりますね。特に主人公とか、長く描いていくだろうなってキャラクターは全部、そんな感じです。まあ、元々、漫画の中に親とかは邪魔だと思っているんですよね。
石 確かに自分も、作品的に親の存在が邪魔に思える時があって、例えば「スターウォーズ」では最初に育ての親が殺されたり、「ガンダム」でも最初に親と死別して物語が始まったりとか、実は作品を作る上で「親はいない方が良い」みたいなセオリーがあるのかな、って漠然と考えていていました。
冨 そうですね。基本的に漫画における親っていうのは、主人公がやることを反対する立場の人間ですから。例えば「HUNTER×HUNTER」の主人公のゴンは、現実世界では小学生高学年ぐらいです。もし彼にきちんとした親がいるとすると、自分の子供を危険な旅に出させるわけがないな、とか考え出すと、本当にもう親って邪魔だなと(笑)。それなら最初からいない方がいいなって考えていたら、結局“親を探す”ということが目的になり、そして“親をひどいヤツににする”というコンセプトが出来上がったんです。
石 なるほど……!
冨 ところで、今回石田さんの漫画を読ませていただいて、あの冒頭シーンに続くような形で、ヒソカの過去を漫画にしてみたいなと思ったんですよね。いつになるかはわからないですけれど(笑)。
石 ……!
── それは・・・凄いですね。
冨 読んでみて、あの最初のシーンに繋げたいなという気になったんです。もし石田さんの中で、冒頭のヒソカが倒れているシーンの手前が、白紙というか、こちらで自由にやっていいような感じでしたら描いてみたいなあ、と。あと、漫画に出てきたサーカスの一団もいじってみたいな、と思いました。
石 このネームを作ること自体に悩んでいたので、先生にそうおっしゃって頂けるのは、・・・光栄です、すごく嬉しいです……。
冨 あまり期待せず(笑)。いつか出来たらお見せしますね。