2019-09-10
「僕のヒーローアカデミア」は、
「あるテクニック」を使うようにしたことで劇的に読みやすくなっています。
こんにちは。集英社の齊藤です。
このブログでは、 「少年ジャンプの編集者はこんな漫画技術を新人作家さんに伝えています。 もっと聞きたくなったらぜひ投稿&持ち込みしてください」ってな話、しかも可能なかぎり「具体的で」「すぐ使える」漫画技術を中心に書いていくブログです。
前回、「絵とセリフを一致させること」が漫画のわかりやすさにつながる、という話をしました。 そしてもう一つ、新人作家さんがやりがちで、でも知っていれば読みやすくできるポイントがあります。
それはなにか?
堀越耕平先生「僕のヒーローアカデミア」1巻と最新巻を例に見ていきましょう。
1巻 第1話
最新24巻 第231話
新連載1話目から、めっちゃ良い絵が入ってますね…(まわってきた校正紙で初めて見た時の興奮は今でも覚えています)
ただ、並べてみると、画力に極端な差があるわけではないのに1話目より最新巻のほうが読みやすく感じますよね。
なぜでしょう?
それは、1巻では「複数の情報が詰まったコマ」が多いのに対し
最新巻では1コマ内の情報が「1つ」に絞られているからです。
たとえば、1巻のこのコマには
・囚われた時を回想する背景
・囚われた時の苦しみを思い出すモノローグ
・「すごい」というセリフ
・デクの表情(「すごい」「耐えているのか」両セリフに合わせた表情?)
という複数の情報があります。
1コマ単位で見たら気にならないのですが、こういった情報詰め詰めのコマがいっぱいあると、読者は読み進めるのが大変になってきます。
また、前回の「絵と文がかみ合っているか」にも関わりますが、
複数の情報があるコマは、何に焦点を当てた絵を入れるか曖昧になり絵がボヤけやすいです。
対して、最新話のほうは1つ1つのコマの情報がぐっと絞られています。
たとえば、このコマは
「『何かあったか?』というセリフ&それに焦点を合わせた表情のホークス」という情報のみですね。
シンプルでわかりやすいです。
自分の経験から言いますと
1コマにいくつもの情報を詰め込むと、とたんに読者にかかる負荷が増えて最後まで読んでもらうハードルが上がってしまいます。
特にキャラ同士の会話の掛け合いを1コマで何往復もさせると、読みづらくなりがち。
「何を見せるためのコマなのか」という意図をもって描く習慣を持ちましょう。
こういうコマよりは…
コマ数は増えるが、1コマ内の会話を絞ってあげるほうが実は読みやすい
またちょっとしたコツとして、
・セリフの無いコマは、増えてもあまり負担にならない
・背景だけのコマもあまり負担にならない
もあります。
この見開きページの3、4、6コマ目のように。
これも覚えておくと、ページの画面バランスをとりやすく、かつ読みやすくなります。
漫画を描いていると、どうしてもストーリーだったりキャラだったりをいじる方向にいきがちです。 でもまず漫画の特性を理解しておくと、「読みやすさ」という第1の武器を手に入れられるので、その後の成長スピードがあがります。
次回は「ドラゴンボールの敵はなぜ2人組なのか?」
という話を書きます(けっこう面白いですよ!)
© 堀越耕平/集英社
カット/ワタナベマユミ