元週刊少年ジャンプ編集者が
漫画家から学んだことを書いていく




2019-11-22

第6回 漫画の打ち合わせでよくあるミス第1位とは?~「すれ違い」に気をつけろ!~



編集者と漫画家さんとの打ち合わせでよく起こるミス第1位は、「言葉のすれ違い」だと思ってます(サイトウ調べ)。


言葉のすれ違いとは何か?




「自分が使っている単語と、相手が思い浮かべる単語が必ずしも同じとは限らない」ことから発生するズレのことです。なにげなく使っている単語でも、認識が違うことが多々あります。たとえば、「ドラマ」という単語。



「ドラマ」を辞書で引くと、「劇的な事件や状況」「演劇・芝居」と書いてあります(集英社国語辞典調べ)。
ですが、サイトウが打ち合わせで「ドラマ」という言葉を使う際は「キャラクターの心の変化・またそれによって生じる、主にプラス方向への環境の変化」という意味で使っていました。
打ち合わせで「ドラマが弱いから、もっと強めたほうが面白くなりそう」と提案した場合は、「キャラクターや状況の変化が物足りないから、ふり幅を大きくしたほうが読み応えが出て面白くなるのでは」という意味になります。
また、僕の上司は「のっぴきならない状況」の意味で使っていました。



でも、打ち合わせ相手の漫画家さんがドラマを辞書通り「芝居」と認識していた場合、「『芝居が弱い』ってどういうこと!?」と意味のわからない提案になってしまいます。「TVドラマ」と混同している人も多いです。間違えているわけではないのに。自分が「当然こういう意味だよね」と思っている単語一つとってもすれ違いは起こるので、できるかぎりかみ砕いて解説する、具体的に分解して解説できない言葉は絶対使わない…と思って打ち合わせに臨んでいました。短いワードほど、人によって認識が違うことが多いので要注意だった印象。




他にも、下記の用語は、打ち合わせでは安易に使わないようにしました。

※あくまでサイトウは、です。




・「少年漫画っぽさ」「少年に向けて」

ふわっとしたあいまいな言葉。こう求めるだけだと、作家さんはだいたい自分が好きな少年漫画をイメージして、相手次第で意味がまったく変わってしまう(たとえば少年漫画と言われて「ジョジョ」を連想するか「ONE PIECE」を連想するか)ので、使う場合は、サイトウが考える少年漫画の定義と構成要素から説明します。




・「ジャンプっぽい・ジャンプっぽくない」

これまたふわっとした危険な言葉。上と同じく意味が広すぎて、人次第で受け取り方が変わってしまうため、使わないようにしてました。




・「世界観」

辞書だと、「人間の世界や人生の意義や価値に対する考え方」とあります(集英社国語辞典調べ)。ただ、アニメや漫画の場合は「キャラクターたちが住んでいる舞台」「作品世界の特殊設定」という意味で使われていることが多い印象。もっとざっくり「作品に流れる空気」として使う人もいます。先述の「ドラマ」と同じくらい、人によって使い方が分かれている印象。




・「かっこよく」「かわいく」

「編集者がかっこいいと思っているキャラ」「作家さんがかっこいいと思っているキャラ」、何に魅力を見出すかは人それぞれなので、まず作家さんがそもそもどんなキャラやエピソード、演出、しぐさをかっこいい・かわいいと感じるかを聞いてから使うようにしてました。

そうじゃないと、ありふれた一般的な「かっこいい」「かわいい」記号をとりあえず使って満足してしまうので。


「そこ!?」と、編集者が想像もしないところに魅力を見いだす作家さんも多く、そしてそういった独自の視点(フェチともいう)は、のちのち武器になっていくので大切にしてほしいです。





色々描きましたが、打ち合わせで言葉のズレを回避する一番いい方法は、「あの漫画のあのキャラかっこいいよね」「あの映画のヒロインは自分はあまり可愛く感じなかった」など、「共通言語」を元に話すのが一番だな、と。編集者が作家さんにやたら漫画や映画を勧める・差し入れする理由の半分は、「共通言語」を増やしたいからでもあります。もう半分は、面白いものを見つけたら手当たり次第に勧めたくなる職業病にだいたいかかっているから。



自分が描いたものを友達に見せたりネットにUPしたりすると、いろんな意見が聞けます。が、その反面、言葉のすれ違いから間違った受け取り方をして「あさっての方向に」いじってしまう恐れもあります。不特定多数の大勢から意見をもらいやすい時代ゆえ、相手がどういうつもりでその言葉を使っているかを意識して聞くことをお勧めします。







次回予告

次回は、「プロの漫画家になるために何を読めばいいのか問題」について書きます。