元週刊少年ジャンプ編集者が
漫画家から学んだことを書いていく




2020-2-28

第9回 連載漫画にはこの2つが欠かせない



連載漫画を作る際に、「ココはおさえておこう!」ってポイントはなんでしょう?


最近、人と連載漫画についての話をする機会が多かったので、改めて考えてみました。



僕は今までバトル、ラブコメ、スポーツ、ギャグ、アニメ・小説のコミカライズ…と色々なジャンルの作品をやりましたが、どんなジャンルであろうと以下の二つのポイントを抑えながら作るべき、と経験から学びました。





その1:主人公が積極的に行動できるようになっているか



主人公が積極的に行動してくれる動機・状況・人間関係がきちんと作られているほど、ネームがスムーズで、作家さんもアイディアが出しやすくなっていました。(連載を続けていくためには「アイディアが出しやすい」ってむちゃくちゃデカい恩恵があります。)


「積極的に行動してくれる動機・状況・人間関係」が無理なくうまくハマッてくれると、「なぜ主人公はこんな行動をとるのか」といった面白くなりづらい説明に何度もページを使わなくて済みますし、キャラのパワーが違います。(パワーってなんだ、って話ですが、こればかりはパワーとしか言いようがない…キャラが前のめりに動いてくれる勢いというか)

編集部の先輩は「主人公が心の底から望んでいる目的を設定すること」と表現していて、わかりやすい言語化だなーと。


たとえば「暗殺教室」では、渚たち3年E組の生徒に「殺せんせーを暗殺する」行動をとらせるため、1話目から「殺さないと地球が破壊される」危機的状況、「殺した者は成功報酬100億」と動機付けが合わせ技で設けられており、読者から見ても「そりゃ積極的に暗殺するよね!」と自然に受け入れられるようになっていました。




うーん、見事…!



対して、主人公が目的に対して消極的・行動が受け身で巻き込まれるだけな作品は、やっちゃダメというよりも話を盛り上げる難易度が数段上がってしまう印象

なぜなら巻き込まれるだけの主人公は、問題が発生しないと行動できないから展開に時間がかかるし、キャラの感情の流れに反する不自然な行動をとらせる・または明確な目的がないまま話を紡ごうとすると、「理屈で読者の感情をねじふせなきゃいけない」作業や説明が必要になってしまい、読者が冷めてしまうのでおすすめできません。

(しかもたいてい「理屈は感情を越えられない」です)


※「部活スポーツ漫画のヒット作が週刊少年誌に多いのは『運動部は、特定の相手と試合をする理由・主人公たちが積極的に勝ちにいく動機が基本説明不要であり、毎週の短いページ数をよけいな説明に割かなくていいぶん話が早い』といった長所が、コンスタントに盛り上げを作ることが望まれる週刊誌連載との相性が良いからでは?」説を個人的にとなえています。






その2:キャラクターとキャラクターがぶつかりやすい構造になっているか



物語をキャラクター相手ではなく、「対状況」だけで盛り上げるとなると、これまた描く難易度が上がる印象です。「対状況」とは、たとえば主人公が敵キャラではなく自然災害と対峙する、またスポーツ物ならボウリングなどの、相手プレイヤーと直接対峙しない競技のことを指します。


やはり、キャラクターを通してしか作品世界に興味を持ってくれないので、主人公と相反する価値観の敵キャラなどを登場させて直接ぶつけられる「対キャラクター」の物語にできれば、主人公の特徴や魅力もより見せやすくなるし、展開やアイディアの選択肢も増えます。

ラブコメは、キャラ(男)とキャラ(女)がぶつからないとそもそも話が成り立たないから自動的にその構造になりますね。

「対状況」の題材でも面白い漫画が描けている作家さんは、正直超すごいです




左:4巻 第32話/右:10巻 第81話


エピソードごとに「対状況」と「対キャラクター」両方を使い分けて盛り上げる「Dr.STONE」の秀逸な作劇は、考えながら読むと勉強になると思います。




なので、作家さんが連載漫画でやりたいネタがあった場合、「この題材なら、こういうアプローチをしてまずキャラ同士がぶつかる物語構造を目指しませんか?」と、キャラVSキャラになる作りをまずはお勧めしています。




以上。


2つのポイントは、週刊誌の短いページ数のなかで盛り上げる方法を突き詰めた考え方のひとつにすぎませんが…参考になれば幸いです。






© 松井優征/集英社

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