元週刊少年ジャンプ編集者が
漫画家から学んだことを書いていく




2020-1-31

第8回 ストーリー構成はこの3つだけ覚えよう



漫画を面白くするために、最適なストーリー構成ってなんでしょう?


新人漫画家さんの作品を読む際、「構成はどうですか?」「起承転結はできていますか?」と質問されることが多いです。「起承転結」「序破急」「三幕構成」「ビート・シート」など、脚本術でさまざまな分析・言語化されているだけに、意識しやすい要素なのでしょう。


最近は、アニメや映画の構成を参考に描く漫画家さんも多いですし、知っておいてもちろん損はないです。が、注意してほしいのは映像と漫画の時間感覚は全然違うこと。映像のほうが、入れられる情報量が圧倒的に多いんです。


なので、最初にチャレンジするであろう短いページの読切漫画に、2時間映画の構成をそのまま詰め込むと、だいたい展開を追うだけでページを使い切ってしまい、キャラ描写(後述)もできずに終わってしまいます。

※参考までに…矢吹健太朗先生がアニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」をコミカライズした際、アニメの1話目(23分)をわりと忠実に漫画化したところ、120ページ以上かかりました。それくらい、映像と漫画は別物です。



「ダーリン・イン・ザ・フランキス」

>>購入はこちらから!<<


また、よく言われる「起承転結」「三幕構成」を漫画で使いこなすには、けっこう高等技術が必要だとサイトウは感じます。慣れてないうちは構成を意識しすぎるあまり「30ページということはそろそろ『転』だからひっくり返しを作らなきゃいけない…」と、がんじがらめで描きづらくなってしまう作家さんも多く、非常にもったいないです。せっかく描くのに、ノルマをこなす感覚になってはテンションも下がってしまうでしょう。


そこで、ここでは自分が実際に使っていた、「起承転結」「三幕構成」のような「ページ単位で構成を組み立てる」方法ではない、もうちょいユルめな以下の3つのポイントだけ意識して話を組み立てる方法を書いてみます。このポイントをおさえると、「何を描くべきか考えやすい」ため、担当作家さんにお勧めしてました。

第5回と併せて読んでもらえると、よりわかりやすいです。




◎その1

「1ページ目と最後のページで変化しているコト・モノを決める」

…最初と最後で何も変わらない漫画を面白く読ませられる天才もいます。が、まずは「変化」を作ることを意識しましょう。「敵を倒す」「恋が成就する」「困っていた人が救われる」などはわかりやすくてよく使われますね。「この漫画は、最初と最後でココが変わる」とまず1つ以上決めておきましょう。そうすると変化前・変化後のコト・モノを読者に見せるためのページが必要になります。(次の「その2」とセットで考えるイメージで)




◎その2

「描きたい・または面白くなりそうな要素を考えたら、それが一番映えるシチュエーション作り(舞台&世界設定・敵など)を逆算する」

たとえば、『その1』の変化ポイントを意識して「愛し合う二人が別れるせつない話」を描きたいとします。となると、別れのシーン以上に「二人が仲睦まじい描写」「なぜ別れなきゃいけないのか、説得力のある状況」をしっかり描くべきでしょう。

「ばれちゃいけない秘密を抱える主人公の面白み」を描きたいなら、「ばれたらどんな目に遭うのか」「秘密がばれそうになる危機的状況」「主人公を追い込むのにふさわしい敵」などが必要…と、「逆算」していくことで描くべきことが明確にできます。1ページ目から思いつくままに描いていって面白く盛り上げてまとめるには、かなりの技術と才能が必要です。




◎その3

『その2』を描いたうえで、残りのページに「キャラの人となり(読者に興味を持たせる・好きにさせる描写、何に怒り何をされたら喜ぶのかなどの価値観)を表すシーンをできるだけ入れる。


見落とされやすいですが、これが一番大事。そして、主人公にページを使うのが最優先。ジャンプのベテラン作家さんたちは、この「キャラの人となりを表す」作業を1、2コマでさらっとやったりするのがマジで凄いんですよ!また、キャラ同士が絡むシーンで『主人公と他キャラの違い』を見せられると、読者により伝わりやすいので理想ですね。




「トリコ」1話目のこのページ、お手本のようだ…!


最初のほうでも書きましたが、「キャラの人となりを表す」ページの余裕がないくらい、他の情報にページを使っている場合は、たぶんキャパオーバーしてるので見直したほうがいいでしょう。コップ(ページ数)から水(描こうとしていること)があふれているような状態ですので、コップに収まるように水の量を調整しましょう。ちなみに、ページ数がオーバーしてしまう時は、「どこを削るか」ではなく「何を残すか」優先順位を決めろ、と先輩編集に教わりました。その通りだと思います。


また、キャラクター描写自体はストーリー展開に必要ないことがほとんどで、ページが足りなくなった時は真っ先に削る人も多いのですが、実は一番削っちゃいけないページです。キャラ描写を削るくらいなら、展開や設定を見直すことをおすすめします。


以上。もちろん人や描くジャンルによって全然考え方が違うので、ひとつの例として参考になれば幸いです。





© 矢吹健太朗/集英社

© 島袋光年/集英社






次回予告

すいません!いくつかネタはあるけどどれから書くか迷ってるので、次回は見てのお楽しみで…!