ジャンプ・ノベル × 少年ジャンプ+ スペシャルコラボ ジャンプ・ノベル × 少年ジャンプ+ スペシャルコラボ

 私の名前は黒川夢乃。
 その辺にいる普通の中学一年生の女の子よ。
 でも愛しい彼氏がいるのが、ちょっと普通の女の子と違うところかしら。
 彼の名前は斉藤槍牙。私と同じクラスで、私とは幼馴染なのよ。
 だから私は毎朝、槍牙くんの家へ行き、槍牙くんを起こしてから学校へ行くの。
槍牙「おはよう。なんだよ。今日も来たのか」
 うっとりと彼の顔に見とれていると、槍牙くんが照れたように枕に顔を押しつけ、嬉しそうに言う。
 来るに決まっているじゃない。私はあなたの恋人であり、事実上ほぼ妻なのだから。
 それからいちゃいちゃしながら支度をするわ。
槍牙「おい、人の着替えをのぞくなよ」
 なんてじゃれあう時間が、とっても楽しい。
 登校中も私と槍牙くんはべたべたとしていて離れないし、それは授業中も変わらないの。
槍牙「しょうがないなあ。お前は」
 他の子たちはみんな恋人がいないからやらないのだけれど、私には槍牙くんがいるから、学校にいる間はいつも彼の膝の上に乗っているの。
女子生徒「よくやるよね」
男子生徒「うらやましいよな」
 常に嫉妬と羨望のまなざしを浴びているけれど、ちっとも平気よ。私も槍牙くんも、互いを深く愛しあっているもの。
 二人でいる時間を優先して、槍牙くんも私も部活動には入っていないわ。本当は引く手あまたなのだけれど、彼は私のために断ってくれているの。
槍牙「すみません。放課後は、ちょっと」
上級生「そうかあ。惜しい逸材なんだがなあ」
 愛しい槍牙くんとの時間は、帰ってからも続く。
 槍牙くんは私の家に来てくれて、私の家族とも仲むつまじく夕飯を食べてくれるのだ。
槍牙「すごく美味しい」
 私の手料理をほおばる姿を見て、本当に心が洗われる気分だわ。
 夜、私は槍牙くんを家まで送っていくの。
 本当は逆だとわかっているけれど、一分一秒たりとも離れていたくないからそうしているのよ。
 早く結婚して、槍牙くんと一緒に暮らせたらいいのにな───そんなことを思いながら、私は名残惜しみつつ槍牙くんの家を後にするのだった。

 俺の名前は斉藤槍牙。
 その辺にいる普通の中学一年生の男子だ。
 でも迷惑な女にまとわりつかれているのが、ちょっと普通の男子と違うところだ。
 そいつの名前は黒川夢乃。クラスメイトの女子で、小さいころからの腐れ縁だ。
 黒川は毎朝、学校へ来る前に俺の家へ寄り俺を起こす。
黒川「おはよう、槍牙くん。とってもいい朝よ」
 午前五時。人のベッドにもぐりこむという犯罪すれすれの方法で。
槍牙「……おはよう。なんだよ。今日も来たのか……」
 うんざりとしてしまい、黒川の顔を見たくもなくて、俺は枕に顔をうずめる。
 確かに黒川は美人ではある。
 だが不法侵入者だ。犯罪者だ。ストーカーだ。
 勝手に俺の恋人とか妻とか名乗ってくるおかしい女だ。
 あと制服を着用せずゴシックロリータと呼ばれるひらひらの衣装を着ている、悪目立ちのする問題児だ。
 それから黒川を追いだそうとしても全力で抵抗されるので、ぎゃーぎゃーとわめきあいながらどうにか学校へ行く支度をする。
黒川「さあ槍牙くん。私は見ているわ。槍牙くんの裸をあますところなく全部ながめていてあげる」
槍牙「おい、人の着替えをのぞくなよ」
 なんて風に、注意するのが本当に疲れる。
 登校中も黒川は俺とべたべたして離れようとしない。
槍牙「歩きにくい、離れろ」
黒川「つまり槍牙くんがお姫様抱っこをしてくれるということね?」
槍牙「違う」
黒川「では私がお姫様抱っこをしていいのね」
槍牙「下ろせこのバカ!」
 なお、黒川は怪力であるため本当に俺一人ぐらい軽々と持ちあげられる。
 授業中もひどいものだ。
槍牙「離れてくれる?」
黒川「嫌よ。私が槍牙くんと離れるときは死ぬときだけよ」
槍牙「しょうがないなあ。お前はいっぺん死んでこい」
黒川「嘘よ。死んだって絶対に離れないわ」
槍牙「……さすがに死んだら離れてくれよ」
 なおこのストーカー女は学校にいる間、いつも俺の膝の上に乗ってくる。
女子生徒「よくやるよね」
 周囲のあざけるような視線が痛い。
男子生徒「うらやましいよな」
 仮にも美人の黒川夢乃。こういうことを言う男子もいる。
 ……なら変わってくれ。しんどいんだよ、この状況。
 常に憐れみと侮蔑と少しだけ嫉妬のまなざしを浴びているけれど、ちっとも慣れない。慣れたくもない。
 俺も黒川も部活動には入っていない。黒川は運動能力も高いし、器用でもあるので本当は引く手あまたなのだけれど、俺が入らないならと、どこの部活も断っている。
黒川「槍牙くんが入るのならどんな部活動にでも入部して一緒に過ごすから、すべては槍牙くん次第ね」
槍牙「すみません。放課後は、ちょっと……さすがにこいつから逃げたいんで」
上級生「そうかあ。惜しい逸材なんだがなあ、彼女。頭が残念なことをのぞけば」
 そうまでして自由を欲したというのに、この地獄の時間は帰ってからも続く。
 黒川に関節を極められ、強引に奴の家に連れていかれるのだ。幸い、黒川の母親がつくる夕飯が美味しいので、これだけが救いである。
槍牙「すごく美味しいです」
黒川「この玉子焼きはどう? 槍牙くんのことを思って私がつくったの。ちょっとだけ私の髪の毛を刻んで入れているのよ」
槍牙「わかった、絶対そっちは食わねえ」
黒川「あ、いま槍牙くんがほおばっているサラダだけ、ドレッシングが私の唾液なの」
槍牙「……嘘、だろ……?」
 本当に心が壊れそうな気分だ。
 夜、黒川は家までずっとついてくる。
 女の一人歩きが危ないのもあるが、本音を言えば一分一秒たりとも一緒にいたくないので帰れ。
 早くこの監視下から離れたいのにな───そんなことを思いながら、俺は夜中の二時にトイレへ立った折、ふと窓の外を見てみた。
 黒川夢乃はまだ家の前で俺の部屋を見上げており、にやあ、と笑って手を振ってきた。
 ……あいつ、いつ帰っていつ寝ているんだ?