箏曲と体操という異なる題材で高校生たちの眩い情熱を描き出す『この音とまれ!』『ムーンランド』。アシスタント時代から交流を続けてきた両先生に、部活漫画や群像劇の魅力を語って頂いた!

いつでも自分のハードルを高く!

――漫画を描かれる際、最も大切にしているものは何ですか?

アミュー 「自分が面白いと思えるものを描く」です。いくら絵や見せ方を頑張っても面白くなければ意味がない。自分の漫画には自分が一番厳しく、常にハードルも上げていかないと一瞬でつまらなくなってしまいます。しかも『この音とまれ!』は20巻を越えていますが、この巻数になると「ここが嫌だから」とかだけではなく「何となく」で読者が離れてしまうこともあります。だからこそいつでも自分を超えていくことが大事だと思います。

山岸 アミューさんの後だと当たり前過ぎるのですが(笑)、私は漫画としての読みやすさにこだわりたいです。読んだらスッと入れるというか、すぐ没頭できる漫画にしたいんです。

アミュー 読みやすさは大事ですよね。途中の回でも入りやすい漫画は最高です。

山岸 自分の中では読みやすい画面も決まっているんですよ。どこにコマが配置されて、どこに見せたい絵があるか、台詞や文字をどう配置するか、とか。そこで漫画の強弱が決まると思うんです。連載を始めて、自分が描きたいものと漫画表現をどう繋げるかの意識がようやく出てきました。アミューさんは当然のようにやっていることを、私はこれから自然にできるようになりたいです。

――漫画や映画などのインプットは日常的にされていると思いますが、他に特別なものはありますか?

アミュー 母親がお箏の先生という環境自体が特別なので、最大限に活かしています(笑)。ネームが詰まった時も、母親や姉の話を聞いている内に思いついたり。あとは箏曲以外の音楽も聴くようにしています。クラシックコンサートに行ったり、ジャズを聴いたり。最近登場させたライバル校のイメージは、ある有名なオーケストラのコンサートで思いつきました。そこで聴いた初演の曲が「よく分からないけど目が離せない、すごい」演奏で衝撃を受けて、これがライバルだったら絶対勝てないと思って。

主人公たちとはまったく異なる、凄みが溢れる音楽表現!

山岸 私はスポーツ映像ですね。体操に限らず卓球とか水泳とかスポーツ全般で、TVの世界大会も流すようにしています。インタビューも選手がどういう気持ちで臨んでいるのか参考になります。そこからキャラやエピソードが思いつくことも。実際に体操の大会を見に行った時は、場の空気から受ける刺激も大きいですね。あとは…作業中は映画を流していることでしょうか。ながら観なので集中できませんが、たくさんの作品に触れないと好きなものも生まれないと思って。ながら観でも、好きなものはちゃんと気づくんですよ。

――今、目標としていることは何ですか?

アミュー 『この音とまれ!』をきちんと描き切って、納得のいくラストを迎えることです。これからも大きな展開がありますが、1話1話後悔しないものを積み上げて「おっしゃ!めっちゃいいラストを迎えたぞ!」となれたら最高ですね。もっとも、それがいつになるのかは分からないですが(笑)。

山岸 私はちょっと率直ですが(笑)、『ムーンランド』は5巻から電子書籍になったので、紙版のコミックスを復活してもらうことです。そのためには漫画がもっと面白くならないといけないので、今描いているインターハイのエピソードを盛り上げることが目標です。

強敵との出会い、そして自身が向き合うもの…。IH編、いよいよ本格始動!

――それでは最後に、お互いの作品のお勧めコメントをお願いします。

山岸 私にとって一番いい漫画体験は「読んでいることを忘れる」です。ページをめくる感覚がなく、ひたすら世界に入り込むことが好きです。『この音とまれ!』はまさにそういう作品です。まるでキャラクターが実在するような感覚で、それぞれの感情の揺れ動きが温かく、爽やかさだけでなく暗い部分も描きつつ、読後感は気持ちいい。しかもアミューさんの技術や物事のとらえ方が組み込まれて、説得力も凄い!最高の漫画体験ができて、音楽を通して「表現すること」を突き付けられる作品です。未読の方がいらっしゃったら、ぜひ読んで下さい!

アミュー 私は純粋に面白い漫画が好きです。『ムーンランド』には、ただただイチ読者として「この漫画、最高!」と、わくわくさせてもらっています。それと私にとっては、手元に置いて何回も読み返したい、好きなシーンがいっぱいある作品です。キャラの成長や体操の演出が綺麗に噛み合って、凄い盛り上がりを見せてくれます。ぜひこの機会に触れてみて下さい。最新刊の6巻には、私の大好きなさくらくんの葛藤も収録されています!

――ありがとうございました!