2019年末、衝撃の読切『にくをはぐ』を発表した遠田先生。初の短編集発売を記念して、LGBT問題を描く有名作家・もちぎ先生との対談が実現! 両先生が考えるLGBT当事者の想い、そして“漫画”とは――!!

もちぎ先生の作品は、すべての人が当事者!

――それでは次に、もちぎ先生の作品の感想をお聞かせ下さい。

遠田 漫画もエッセイ集も全部読んでtwitterも追いかけているのですが、特にすごいと思うのは「ゲイの人は性的指向が違うだけで、私たちと何も変わらない」と自然に伝わる点です。私が一番驚いたのは『ゲイ風俗のもちぎさん』のBL好きの女友達のお話です。マイノリティの悩みを「種類は違うけど同じように生きづらさを感じている」と、たった4ページで描いていて。

――身体が大きいだけで周囲から「最強キャラ」とされて、キャラ付けが先行して誰も彼女自身を見ないという高校時代のお話ですね。

周囲の言動は、例え悪気がなくても当事者を苦しめることも…。

遠田 面白がって相手をコンテンツにして、その無理解が相手を苦しめてしまう。それは「性的指向が違うけれど特別なキャラクターではなく、それぞれ悩みを抱えている」というゲイの世界にも置き換えることができます。もちぎ先生の作品は、他人事ではなく自分にも思い当たる部分があるんですよね。あと個人的にエッセイ集の『あたいと他の愛』は、文章がさらに深く共感できて好きです。中学時代の先生との話は泣きました!

もちぎ いやぁ、嬉しいです(笑)。

遠田 人に対する接し方も気づかされるものがありますよね。例えば『ゲイ風俗のもちぎさん』7話では新人ボーイさんに反抗されますが、相手の見えていない側面まで想像して向き合ったりして。こういった、自分が知らない部分も理解しようとする姿勢は、私も漫画で出したいと思いました。

相手への想像力が生まれるのは、自らも悩みを抱えるからこそ。

もちぎ 鈍感なうえにガツガツ近寄るので、嫌われていることがあまり気にならないのかも知れません(笑)。ただ「あたいのことが嫌いで攻撃してくる人にも、好きな人や大切な人がいたり、あるいはその人を大切に想う人がいたり、知らない場所では好青年の評価を受ける善良な一面もあるのかも」と、思うようにしています。

遠田 すごい…!昔からそのような考え方だったのですか?

もちぎ いえ、中学生くらいまではすごい荒れていました。顔を合わせると必ず喧嘩する相手もいましたが、彼が部活で後輩に慕われていたり、近所では頑張り屋と評判なことを知って…。そこで一旦、自分の視点をリセットすると気にならなくなり、逆に好きになったりするんです。あまり人を嫌いになれないんでしょうね。

――もちぎ先生はなぜ、漫画やツイートを始めようと思ったのですか?

もちぎ ゲイ風俗のお客さんは、あたいのことが好きで来てくれましたが、ゲイバーはちょっと違います。ゲイに興味がある人、友人の付き合いで来た人、賑やかに過ごしたい数人組…と、色々な方と接するようになりました。その内に自分の中にある偏りに気づき、もっと多くの人にゲイのことを発信してみたいと思ったんです。

世間では一概に語られることが多いが、ゲイのセクシャリティも多様である。

――様々な反響があったと思いますが、いかがでしたか?

もちぎ 理解や共感してくれる人がいて嬉しかったです!ご自身の身の上話を送って下さる方もいて。でも「ゲイの人は可哀そう」とか、別世界を眺めているような方も多かったですね。こちらは同情が欲しくて発信しているわけではないのに。

遠田 エッセイに登場しているみなさんの反応はいかがでした?

もちぎ 「私を漫画に出してよ」「もっと綺麗に描いてよ」「印税で奢って」くらいです(笑)。みんなLGBT当事者ですが、全員がLGBT問題に興味があるわけではないんです。仕事があって友達もいて、難しいことは分からなくてもいいというスタンスかも。あたいの活動も「もちぎが楽しいならいいんじゃない」と見守ってくれています。

――執筆の際、特に思い出に残っていることは何ですか?

もちぎ 先ほど遠田先生が挙げて下さった中学時代の先生との再会です。初恋で、人生の転換点でもあります。これまでエッセイで書いた人とは、連絡が取れる人にはほぼ連絡し、中には対面して作家活動していることを話したりもしています。センシティブな問題を抱える当事者の特定を避けるために、どういう風に描くべきかを相談するためです。でも先生は退職されて普通に暮らしていて、正直に全部ぶちまけるのも迷惑かな…と、ゲイであることは言えませんでした。そこが作家としての一番のイベントでしたね。

中学時代の恩師は、もちぎ先生にとって人生の救いでもあった。

遠田 思い出は他にもたくさんあると思いますが、作品を発表して特によかったと思うことは何ですか?

もちぎ 本屋にあたいの本が並び、お客さんがそれを取ってレジに向かった時は本当に良かったと思いました!

遠田 自分の本が買われる瞬間を目撃できるって、すごいですね!私も一度張り付いたことがありましたが、全然でした…。

もちぎ タイミングが良かったのかも。あと思うのは、ゲイバーで話したことってほとんど形には残らないんですよ。こちらはプロなので話していた流れと情報は覚えていますが、相手はお酒を飲んでるから朝にはほとんど忘れてしまっていたりして…。でも本になると、それが自分やお世話になった方々の生きた証になるような気がして。