――お2人の好きな作品や作家をお聞かせ下さい。
遠田 一番は『ぼのぼの』(いがらしみきお)です。ぱっと見、可愛い動物たちの4コマという印象ですが、一匹一匹に個性があり、それぞれが一生懸命考えて生きているんです。特に気に入っているのが、各シリーズの導入の詩的なテキストです。子供のぼのぼのたちの言葉で、大人ですら詰まるすごい深いことを投げかけてくるんですよ。
もちぎ あたいは姉の少女漫画を少し読んでいて、矢沢あい先生(『NANA-ナナ-』他)、岡田あーみん先生(『お父さんは心配症』他)とか、少し前の少女漫画が好きです。矢沢先生の『ご近所物語』を大人になって読み返したのですが、ものすごく面白かった。あの時代にしか描けない作品なのに今読んでも面白い!
遠田 子供の頃に面白かった作品って、大人になるとまた別の視点もできてさらに楽しめますよね。若い子が大人になってもちぎ先生の作品を読み返したら、LGBTの状況も変化しているだろうし、また楽しむことができそう。
もちぎ そういって頂けるとありがたいです!
遠田 あと、私が作品を描く上で一番影響されている作品だったら『寄生獣』(岩明均)です。画面のインパクトがすごく、驚くような画面構成で、「この先どうなるんだろう!?」とページをめくる手が止まらない。私も『にくをはぐ』で千秋が夢の中で捌かれたり、『熱い西瓜』(短編集収録)で鼻の穴からスイカが出てきたり、昔描いた読切だと、切った爪を集めたらお母さんになったり…(笑)。見た目のインパクトを入れるのは『寄生獣』から来ていると思います。
もちぎ 影響というのであれば、湊かなえ先生(『告白』他)の作品全部です。母と娘の確執とかの話が多くて「ああ、こんな人おるおる」と読みつつも、ときどきウッ…とさせられます。読者の感想にも気づかされますね。というのも、湊先生のファンは作品の感想で「自分の母もこうでした」「知り合いが大変でした」とか、意外と人の家庭環境や家族関係に興味を持ち、ちゃんと考えるんです。自分がゲイ風俗の話を描いた時も、同じようにきちんと受け取ってくれる人がいるはず、と思いました。
――漫画などでLGBTを扱う作品が増えていますが、どのようにお考えですか?
遠田 エンタテインメントとして面白く広がることはいいことだと思います。私の母は同性愛には興味がないはずですが、ドラマ『おっさんずラブ』にドはまりしていました。そこがLGBTの世界を知る入口になってくれるといいですよね。特に若い人は情報集能力や飲み込む力が高いので、すんなり理解してくれると思います。
もちぎ 自分が作品を描く時も、当事者以外も共感できる作りにしようとは思っています。LGBTを扱った作品は「ゲイを描いた新しい作品」として見られがちですが、それが当たり前になると、今度はゲイ風俗くらいでは目新しさがなくなり…難しいですね。「特別だけど差別もない」というところに進めたらいいと思います。LGBTが当たり前にある世界というか…フィクションとノンフィクションを織り交ぜた作品が生まれたら盛り上がりそうですね。ただ、ちょっと怖いと思っているのが、理解される前に飽きられることです。「ああ、またLGBTか。分かっているよー」と言ってちゃんと見てくれないとか。興味がなくなることは理解されないことと一緒なので。
遠田 もちぎ先生もよく仰られていますが、「ゲイは明るくて、面白くて、相談しやすい相手という固定概念があり、一人の人間として見られていない」という理解の浅さですよね。それぞれに多様性があることが浸透して欲しいです。
もちぎ 今は過渡期だと思うんですよ。大昔のゲイであることを発信すらできなかった時代を乗り越えて、今は発信と存在することはできるようになった。これからは存在の仕方を問われるのかな、と思います。