――第1話で一番気に入っているコマはどこですか?
近藤 やっぱり詠子の「あなたは恐怖を愛している」のコマですね。ここは仕上げまでほとんど自分で描いています。服装もペン線ではなくトーンだけで表現しました。
――お母さんの魂が捕らわれる演出が、卵子に精子が群がるようなショッキングな演出ですよね。
近藤 霊に胎児みたいな印象があって、同時に太陽みたいな印象も出ればいいなぁ、と思って考えたものです。1話終盤の捕まえた霊が他の霊に囲まれている影の演出とか、怖い場面は直接描かない方が怖いのでは…という考えがあり、間接的な表現を多用している気がします。でもあらかじめ準備したり、直接何かを参考にしていることはないですね。絵はネームの時点で決め込むので、ライブ感覚というか思いつきです。
星野 それって単純にセンスがいいってことですよね。
近藤 ありがとうございます。ネームが順調だと考える余裕があるのですが、遅れるとその時間もなく…(笑)。
――星野先生はネームの時点では絵はどこまで想定されていますか?
星野 ネームの時点で原稿の形に見えています。アナログの頃のネームは枠とフキダシ程度でしたが、デジタルだとネームのままペン入れもできるので、その時点で絵も考えるようになりました。あと私の場合、ネームの前に絵コンテを切ります。本当にアニメの絵コンテみたいな形で、場面を考えるのはそこですね。
近藤 私はネームの前にエクセルで文字のプロットを書きます。台本の隣のセルに絵のイメージを文字で添えるんです。それを元に担当さんと打ち合わせして、アリならネームに入る…と言う感じです。
星野 私のプロットは週刊時代からの習慣で、文字も全部手書きです。近藤くんみたいにテキストでプロットを作れたらいいと思って試したけれど、まったくできなかった。私は絵からじゃないと何も浮かんでこないんです。
――ネームやアイデアに詰まった際はどのように解消されますか?
近藤 詰まった原因は何か?を箇条書きにして、一つずつ潰していきます。大体はやりたいことの何かが矛盾・競合していることが多いので、アリナシで白黒つけて迷いを消すことで詰まりを解消させます。
星野 担当さんと話をするのが一番かなぁ。とりあえず何でもいいから話をする。すると、ポンっとアイデアが出てきたりするんです。それが使えるアイデアか使えないアイデアかは置いておいて。
――コマ割のルールはありますか?
星野 1つはコミックスを意識するようにしています。雑誌掲載時より左右が切られたり上下が伸びたりするので、その時に自分がイメージした通りの画面になるように。あとは私も詰まった密度が好きなのですが、その一方でパーッと気持ちよく抜けるコマも作りたいんです。コマ割はただ四角に割ってるように見えても、枠自体も絵で、相応しいシーンや表現を入れていくための第一筆になるんです。
――コマの大きさや形も、表現するための重要なものということですね。
星野 その上で読者への読みやすさや、めくった先の大ゴマを作るために位置や大きさを調整します。でもそれは、最初に自分が伝えたかったキャラの心境や印象が変わってしまう…そういう葛藤に悩みつつコマを割っています。
近藤 めくりでインパクトを出す際に、前のページがキツキツになることはよくありますよね。
星野 あるある!入れたいコマを、どうやったら入れたい大きさ・位置に入れられるのだろう…と。だからコマ割に明確なルールはなく、いわば感覚なんですよね。
近藤 もちろん一番見せたいコマを大きく配置して、そこから他のコマを調整…という基本はありつつも、結局は読んだ時の生理的な受け入れ方です。で、それは実際に描いてみないと分からないんですよね。
――星野先生と近藤先生のコマ割は、線が斜めになったり変形ゴマだったりといった、変わった割り方はあまりされていませんよね。
星野 自分の漫画の密度が濃いことは自覚しているから、どこかで読者への読みやすさへの意識があるんでしょうね。
近藤 何か特別な意図がない限り、コマは斜めには切らないですね。